接近から流します

右から左に流す日々

結局、自衛隊が殆どの職場よりもマシでホワイトである理由

 

 先日、久々にこの漫画を読んだ。

note.com

 それからこの記事も読んだ。

news.yahoo.co.jp

 この2つを読んだ上で、久々に過去を回顧して一つまとまった記事を出したくなった。

 私は高校卒業後、自衛官として4年勤務していた。自衛官になったのは何か特別高尚な理念があったわけではないのだが、夜間大学に通学するための手段として利用させてもらったという利己的な理由が半分を占める(単純な好奇心もあったのも事実だが)。

 演習や演習場整備、それから検閲(訓練成果の集大成を試験する超ハードな演習だと理解してもらえばいい)や災害派遣とかで通学が難しい場合も多いが、自衛隊は夜間や通信制で勉強することを結構認めてくれる。私の場合は入学が教育隊入隊と一緒だったので、周囲がコンパとか楽しんでる最中、戦訓で汗やら泥まみれになっていたわけだが、それでも中隊配属後すぐに通学証を発行してもらえたことを記憶している。

 訓練はやはりキツい。私は普通科所属だったのだが、穴掘りやら夜間行軍やら、死ぬほどキツかった思い出がある。それから冬山で凍えながら演習をやったのもキツかったし、スキー行軍とか気が狂うほどキツかった記憶もある。

 普通に入隊するなら隊舎で生活することになり、必然的に集団生活となるので、人間関係は他の官公庁や民間よりも濃くなるし、部屋は先輩と同部屋。ガチャ運が悪いと面倒くせえなあと思うような人とも辛抱強く付き合っていかなければならない。相部屋なのでプライベートは制限されるし、外出なんかも許可制で門限があるから、そういう意味では娑婆と比べて不自由だとは言えるし、階級と序列がものを言う社会なので、ある程度は縦社会の厳しさを覚悟する必要があるだろう。

 だから、ひと昔前の「ノルマ稼ぎ」広報官の様に、ある意味では詐欺的な誇大広告で「自衛隊は楽だよ!!」みたいな虚偽は吹聴されるべきではない。

 

 だが、一方で「自衛隊」=「ブラック」みたいなイメージは変だなあと思っている。

 当たり前だが、どんな仕事でもキツいものはキツいもので、仕事の厳しさは付随してくるものだ。演習なり行軍なり、そういうものは確かにキツいし厳しいが、終われば平坦で楽な業務になったりする。自衛隊の業務にも波があるので、キツいときはキツいし、楽なときは楽だ。残業という概念がないので、部署によっては「定時通り」にいかない場合もあるのだろうが、私のいた普通科の部隊では原則的に0815~1715の課業で、演習なり特別なことがない限りは原則的に定時で終了だった。福利厚生は公務員なので抜群だし、睡眠もしっかり摂れる上に、体は自動的に鍛えられるから、よっぽど自分で不摂生をしなければ健康体でいられるはずだ。ご飯も健康に配慮されている上に美味しい。自衛隊的には「食べることや寝ることも仕事」だということになるわけだが、政府が働き方改革をする以前からこうした土壌が整っている部分は非常に評価できる。

 下がやるべき雑用なんかも、最初は一通り覚えておくのは大変に見えるが、慣れてくると大したことではなくなる。ゴミ出しであるとか、先輩が何かやってたら手伝うとか、宴会の席では一番下は酌をして回るとか、まあ世間一般としてはよくあるものだ。そこまで非常識なものはない。後輩を顎でこき使うような先輩もいるのだろうが、大概そういう輩は嫌われるし、評判は良くない。パワハラ気味の上司もいるにはいたが、そういう非常識な人間は周囲から距離を置かれることも多い。パワハラの境界は曖昧だと言われることが多いが、明らかに駄目なことは殆どの人が認知している。肉体的暴力にしろ、精神的暴力にしろ、性的暴力(セクハラ含む)にしろ、自衛隊はそれを組織で抑制しようと努めていたし、それは大概のまともな企業ならやっていることだ。そのまともな企業の中でもパワハラ・セクハラ・モラハラ親父を根絶しきれていないのだから、自衛隊が比較的に暴力が横行しているというわけではないように思える。

 何より、自衛隊では教育がまともに機能している。人生設計の教育にしろ、ハラスメント防止の教育にしろ、「統制」の名の下において全体に普及させる集権的でシステマチックな方法をとっている。研修にしても、他の官公庁や娑婆の企業がOJTという名の「放置」教育をしている中、自衛隊は6ヶ月間みっちり教育を行う。まして、中隊所属した後も、殆どは単独の業務はやらない。中隊全員で下の教育や面倒を見る。これに関しては他のどんな職場よりも優れた教育システムを持っている。「警察官をクビになった話」に出てくる警察学校では、平然とふるいにかけていくようだが、自衛隊の教育隊は(それでも辞めていく人は何人かは出てくるものだが)「如何にして全員がゴールできるか」を指導者側は考える。ちなみに、私がいた教育隊は誰一人として脱落者が出なかった。

 一時期刑務官になったこともあるが、あそこの指導システムはまさに最悪の代物だったことを覚えている。新人の教育を専門とする警備主任は、他の仕事を兼務しながらとなるので、指導内容も雑になりやすい。まして、2週間の(実務と殆ど無関係な)座学を少しやっただけで、殆どズブの素人をいきなり現場に出す。体系的に実務を身に着けているわけでもなく、わからないことが殆どであるにも関わらず、わからないことを平気で怒鳴り散らす。挙げ句に怒鳴り散らすことが「面倒をみてやっている」と気が狂ってるかのような事を言い出す。

 ここまで狂った人間が多い職場はそうそう見当たらないが、ここまで行かなくとも、自衛隊以外の職場は教育システムがまともに機能していない場合が多々ある。まず第一に最初に教えておくべき業務上の注意事項を明示せずに、後から「これじゃ駄目なんだよ」を言い出す上司や先輩は無能としか言いようがない上に、本来は指導する側の責任であるはずだが、こうしたことを下の理解力不足に責任転嫁させる職場はとんでもなく多いはずだ。第二に、マニュアルを作成して全体に普及させるべきことを全くやっていない職場も多いだろう。そういう職場では往々にして「人によってやってることと言ってることが違う」という悪しき職人化が起きてしまう。人によっては「人の話を聞いてるときはメモをとれ」と指導しているのに、別の人は「メモをとっててちゃんと人の話を聞いてるのか?」と指導する人間がいたら、指導に従う側は何を信じて行動すべきなのか指針を失う(ちなみにこれは刑務官だった頃に実際に言われたことだ)。指導する側はしっかりとした普遍的基準を示して指導すべきであり、そこに例外を付すならきちんとそれを定式化して教えるべきだろう。だが、これをきっちりできている職場は殆ど無いと言ってもいい。

 

 結局、自衛隊が相対的にホワイトな職場なのだ。大概の官公庁や娑婆の企業と比べれば、ここまで「まとも」な職場は寧ろ珍しいのではないか。世間一般のイメージは「自衛隊」=「キツい」でとまったままだが、望むらくは「自衛隊はキツいけどいい職場だよね」くらいにはなってほしいと心の底から思っている。

 

自衛官という生き方 (イースト新書Q)

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  • 作者:廣幡賢一
  • 発売日: 2018/11/10
  • メディア: 新書